みすず書房

地球環境が人類を改変する

地球環境が人類を改変する

前回は、人類が惑星を「改変する」歴史を超特急で学びました。しかし惑星の改変者たる人類には、「改変される」生物としての側面もあり、今回はそこに注目します。人類の祖先がアフリカで暮らした約600万年に比べると、人類がアフリカを出てから現在までの約7万年という時間は、非常に短いものです。しかしそんな短期間で、人類はアフリカ以外の不慣れな環境や、人為的に作り変えた環境によって急速に作り変えられていきました。その軌跡を見ていきましょう。

図1 環境と人間の相互作用――環境が人間を進化させる

大移動によって起きた進化

アフリカを出た人類は、7万年という比較的短い時間のなかで、急速に適応進化して現代に生きています。そのドライバーを理解するカギは「分布拡大」と「農耕・牧畜」です。ここではまず、アフリカから分布拡大することで起きた適応進化についてご紹介します。
 

肌の色は命にかかわる問題だった

肌の色は、古くから人間同士の差別の根拠となってきましたし、その考え方は現代でもまだまだ残っています。しかしそれとは別に、肌の色は人類にとって生死を分ける問題でした。

人類の祖先はアフリカ大陸の赤道付近に分布しており、大量の紫外線を浴びて暮らしていました。強すぎる紫外線は、日焼けやDNA損傷に伴う皮膚がん、重要な栄養素である葉酸(ビタミンB群)の分解などを引き起こすので、生物にとって害が大きいものです。そんな環境で人類の祖先が生きていけたのは、黒い肌をもっていたからです(これは人類の祖先が体毛を失ったときに獲得した形質と考えられています)。黒い肌に含まれる大量のメラニン色素は紫外線を吸収でき、上記の害を防ぐ機能がありました。

しかし、この黒い肌はアフリカ以外の、紫外線量の少ない土地では裏目に出ます。7万年前にアフリカを出発した人類の祖先の一部は、紫外線量の少ないヨーロッパの高緯度地域に進出・定着しました。特にヨーロッパの冬は、紫外線量がアフリカの10分の1以下しかありません。この環境では、黒い肌がかえって問題になります。その原因は、ビタミンDという栄養素です。ビタミンDは骨形成などに関わる栄養素で、不足すると重篤な疾患につながります。重要なのは、この栄養素は日光に含まれる紫外線を浴びることでつくられるという点です。紫外線を吸収してしまう黒い肌を持つ人は、十分なビタミンDを作るのに多量の紫外線を必要とするため、ヨーロッパのような紫外線量の少ない地域ではビタミンDが欠乏しやすく、食物などから補うことができなければ生死にかかわる重篤な疾患をわずらってしまいます。

こういった選択圧があったため、高緯度地域に進出した人類集団では肌の色が薄い人のほうが生きのびやすく、徐々に肌のメラニン色素が減少する適応進化が起きたと考えられています。個々人の肌の色と、そのルーツとなる土地の緯度が示す明確な関連が、その根拠です(図2)(1)。これは各地域の先住民を対象に、日光の当たらない部位の肌の色をフォン・ルシャンの色彩尺度に基づいて定量化した古典的な研究で示された図です。人類は地球全体に分布を拡大しましたが、緯度が高い地域に定着した人々は明るい肌を持つ傾向があることがわかります。興味深いことに、高緯度地域における肌の色の適応進化は一つのやり方で起こったわけではありません。たとえばヨーロッパと東アジアの集団はどちらもメラニンが少ない明るい肌をもっていますが、その遺伝的基盤は異なっていることが知られています(2)

図2 肌の色とルーツとなる土地の緯度の関係。フォン・ルシャンの色彩尺度に基づいた各地域の先住民の肌の色。

高地への適応の仕方は、2通りある

アジアのチベット高原や南米のアンデス高原には古くから人間が住み着いていますが、その祖先はアフリカからの分布拡大に伴ってたどり着いた人々と考えられています。ただ、このような高山環境で生きていくことは簡単ではありません。具体的には、チベットやアンデスのように標高4000mにもなる場所は、海抜0mの土地に比べて気温がおよそ24℃も低く、一回の呼吸で吸える酸素の量も約60%まで減ってしまいます。ふつうの人はそんな環境にいるだけで、体調が悪くなります。代表的なのは低酸素環境に起因する症状です。軽症であれば頭痛や吐き気といった高山病の症状にとどまりますが、重症になると肺水腫や脳浮腫を引き起こしますし、妊娠出産にも影響します。人体には、継続的な低酸素状態に反応して赤血球の血中濃度を高くし、酸素の利用効率を高める機能が備わっています。ただしこれは応急処置的なもので、長期間に及ぶと過剰な赤血球によって血液の粘度が高まって、全身に十分な血液を送り出すことが困難になります(慢性高山病)。そのようなわけで、高山環境は人類が分布拡大した地域のなかでも最も過酷な環境の一つと言えます。環境が過酷であるということは、それだけ選択圧も強いということ。それゆえ、かつて高山地帯に定着した人々はその強い選択圧に適応し、急速に進化しました。

その代表的なものが、チベット高原に住む人々の適応進化です。当地の人々の体には赤血球の増加を強く抑制しながらも、全身の組織への酸素供給を保つしくみが備わっています。赤血球の代わりに、強力な血管拡張剤である一酸化窒素を増やして血流を増加させているのです(3)。興味深いことに、この適応に関連する遺伝子(EPAS1)の由来は、私たちとは別の人類(デニソワ人)にある可能性が示唆されています。私たちの祖先がチベット周辺に進出した際に、先住していたデニソワ人と遺伝的に交流し、そこから高原適応のカギとなる遺伝子がもたらされたのかもしれません(4)

一方、アンデス高原の人々はまた違った形で適応したようです(5)。アンデスの人々の赤血球濃度の抑制はそこまで顕著ではありません。しかしその一方で、彼らの胸郭は大きく、それに伴って肺容量も大きいことが古くから知られていました。肺が大きいほど空気中の酸素をうまく利用できるので、体調不良にならずに生きていくことができます。つまり、アンデス高原の人々は、血管拡張という生理的反応ではなく、胸郭・肺の増大という形態学的変化によって環境に適応したのです。この場合も肌の色と同様に、同じ選択圧に対して異なる経路で適応が生じたというわけです。
 

毛髪も急速な進化の賜物

ヨーロッパで生じた肌の色への選択圧は、副産物として髪や瞳の色も進化させた可能性があります。肌の色の違いは主にメラニン色素の多寡で決まるのですが、同様に髪や瞳の色にもメラニン色素が関与しており、ここに明るい肌の関連遺伝子が関係していることが示唆されています(6)。しかし、髪や瞳の色には肌の色ほど緯度に沿った明確なパターンはなく、副産物説だけではうまく説明がつきません。別の仮説として提案されているのは、性選択説です。広く動物界を見渡せば、配偶者に選ばれやすいという生物学的利益によって進化した形質は少なくありません(クジャクの羽がその好例です)。性選択仮説では、明るく目立つ金髪や碧眼などは、初めは肌の色の副産物として生じ、その後に広まっていったのは異性に選ばれやすかったからではないか、と考えます。

東アジア地域の人に多い「太くまっすぐな髪」も、なんらかの自然選択があったはずなのにその詳細は不明な形質の一つです。この形質にはエクトジスプラシンA受容体という遺伝子が関わっていて、特定のタイプのエクトジスプラシンA受容体を持つ人は、髪の断面が大きく、円に近い形になる(つまりカールしにくくなる)ことが知られています(7)。ただし、エクトジスプラシンA受容体は髪の質だけでなく、汗腺の量、乳腺の量、歯の形態(前歯の裏側が凹んでいるのは東アジア人特有なのです)などいろいろな形質に関与しています(8)。それゆえに、どうしてこの形質が進化したのかが特定しにくいのです。このことを説明する仮説には、高温多湿な東アジアに住む人びとにとって、汗腺を増やして蒸散作用による冷却機能を高めるという進化的利点があったから、この遺伝子の頻度が増加した、というものがあります。しかし、汗腺の量は遺伝子だけでなく生まれ育った環境の影響でも変化するため、あまり有力な説ではありません。結局、エクトジスプラシンA受容体がどうして進化したのか、具体的な理由は未だに謎のままです。

環境改変によって起きた進化

ここまでは、人類が7万年前にアフリカから分布拡大したことで生じた適応進化に着目しました。ここからはさらに時代を下り、1万年前ごろに目を向けます。このころに人類は農耕と牧畜を始め、それをきっかけに身の周りの自然環境を作り変え、居住地域を作り変え、大陸を作り変えながら生きてきて、今や惑星全域を作り変えているのは、前回説明した通りです。その作り変えられた環境は新たな選択圧となり、逆に人類自身をも作り変えていきました。

図3 人間が創った環境も人間に影響する

食べ物が人間を作り変えた

農耕・牧畜という文化は人類の「食べ物」を大きく変え、これが人間の適応進化に影響を与えました。農業以前の狩猟採集時代の主な食料は、ドングリなどの堅果、沿岸の魚介類、草食獣、草本植物の塊茎、塊根などでした。一方農業が始まると、主なカロリー源としてイネ科の種子(コムギ、イネ、アワ、キビなど)やイモ類といった、デンプン質の多い作物を育て、それらを食すようになりました。

人間がデンプンを分解するには「唾液アミラーゼ」という酵素が重要で、この酵素が少なければせっかく食べたデンプンを栄養素としてうまく利用することができません。人間はデンプンを効率的に分解する能力を急速な進化によって獲得したことが、この酵素の遺伝子に着目した研究からわかっています。その研究では、いまもわずかながら存在する低デンプン食の狩猟採集民族と、伝統的に高デンプン食の三つの人類集団(日本人、ヨーロッパ系アメリカ人、タンザニアのハッザ族)とで比較したところ、高デンプン食の集団の方が唾液アミラーゼ遺伝子のコピー数が明確に多いことがわかりました(9)。平均コピー数は、高デンプン食集団で6.72、低デンプン食集団で5.44であり、高デンプン食集団のほうが1.28個多かったのです。アミラーゼ遺伝子のコピー数が6個以上の人の割合は、高デンプン食集団では133人中93人(70%)だったのに対し、低デンプン食集団では93人中34人(37%)にとどまりました。高デンプン食集団の人のなかには、コピー数が14以上にもなる人も数人いたようです。さらに、ゲノムの解析結果から、唾液アミラーゼ遺伝子数にも非常に強い自然選択が働いていたと推定されています。

また、人間は農耕・牧畜を通じて、ウシやラクダ、ヤギなど「家畜動物の母乳」を横取りすることを覚えました。この新しい食料も、進化の原則どおり、人間を急速に進化させました。

日本にルーツを持つ大人のなかには、牛乳をたくさん飲むとお腹が緩くなったり下痢をしたりする人が少なくありません。この「乳糖不耐」の症状は、もともと持っていた母親のお乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解する酵素(ラクターゼ)が、成長するにつれ機能しなくなるせいで現れるものです。一方で、ヨーロッパや中東など畜産・酪農が歴史的に盛んだった地域にルーツを持つ人たちは、大量の牛乳を飲んでも平気な人が大半です。これは、この地域の人たちはラクターゼが機能し続ける遺伝子を持っていることを示しています。つまり、人間が始めた畜産・酪農の文化が、この形質を進化させた、ということです。さらに、このラクターゼ持続型の遺伝子に着目したゲノム解析の結果から、この遺伝子にかかった選択圧は人類史でも稀にみる強いものだと推定されています(10)。これを説明するある仮説では、飢饉や感染症の流行時に、家畜のお乳という「汚染リスクが低く、高カロリーな水分」を大量に摂取できるかどうかが生死を分けた、と考えられています。栄養失調や感染症で体が弱ったとき、大量の牛乳を飲んでも下痢が生じにくく栄養を吸収できた人が生き残りやすかったのでしょう。こうして牛乳を効率的に消費できる人たちが適応進化によって増加した地域では、畜産・酪農の文化がさらに盛んになったと考えられます。これは、遺伝子の進化と文化的発展のフィードバックの代表例です。

このような形質が急速に進化したという事実は、乳やデンプン食をはじめとする農耕・牧畜に伴う食生活の変化が、人類の生死に関わる強い影響力を持っていたことを示しています。

最後は、お酒の話です。お酒は、デンプン質や糖を原料につくられる、エタノール(アルコール)を含む飲料です。農耕によって大量のデンプン質食料が手に入るようになった人類は、それとほぼ同時期にお酒を造る文化にたどり着いています。中国でも、稲作が出現したすぐあとの約9000年前には、すでにコメを原料としたお酒を造っていたようです(11)

お酒が文化として定着した理由は、いくつか考えられます。お酒はエタノールを含みpHが低くなるので、生水よりは保存性と衛生性に優れます。また、穀物として食べるよりも、発酵させてお酒として飲むほうが栄養学的に優れる場合もあります。さらに、お酒は、饗宴、儀礼、祭事などで使われる社会的役割も持ちます。あるいは、クモザルやキツネザルなどの果実食霊長類はエタノールを強く好むという性質があり(栄養的な価値の高い発酵した果実を選好するという適応的利益があったと考えられています)、果実食だった祖先を持つわれわれ人類もそれを受け継いでいるのかもしれません。

ところで、お酒にはいいことばかりではありません。20歳以上の読者の方はお分かりかと思いますが、お酒を飲み過ぎると“へべれけ”になります。すぐに気分が悪くなってしまう人も少なくないでしょう。お酒で気分が悪くなる主な生物学的理由は、エタノールが分解される途中で生じる有害なアセトアルデヒドを処理する酵素(ALDH2)の働きが弱いことと、エタノールをアセトアルデヒドへ変える酵素(ADH1B)の働きが強いことで説明されます。前者は言わずもがなですが、後者は「酒に弱い」ことの主因ではないものの、アセトアルデヒドの生成速度を高めてしまうため、ALDH2の働きが弱い人の不快な反応を強めます。

われわれ日本人を含め、東アジアにルーツを持つ人のなかには、少量の飲酒でも顔が赤くなったり、動悸や吐き気を覚えたりしやすい人が比較的多くいます。このことは、ADH1B(エタノールをアセトアルデヒドに変える酵素)の遺伝子に着目した研究で、生物学的に裏付けられています。高機能のADH1Bを持つ人の分布は東アジア南部が最も多く、そこから同心円状に減っていく、つまり東アジア南部の人々を中心にだんだんとお酒に弱くなくなっていくのです(図4)。興味深いことに、この分布は稲作の広がりとおおむね一致しています。つまり、稲作の歴史が長い地域ほど、お酒の弱さに関わる遺伝子を持つ人が多いことを示しています。

図4 グレースケールで高機能のADH1Bを持つ人の分布を、記号(■、▲、★)で稲作が出現した時期を示した図。色が濃い地域ほど、“悪酔い”しやすくお酒が飲めない人が多い。

ここまで読まれた皆さんは、なぜ稲作の歴史が長い地域ではお酒に弱い人が多くなったのか、その進化的な理由が気になるはずです。これほど明確な地理的なパターンがあるので、かなり強い自然選択が働いたと推定されるのですが、実は、この理由はよくわかっていません。一つの可能性として、この遺伝子を持つことで、お酒を飲み過ぎない、という利点があったのではないかと(真面目に)議論されています。どういうことでしょうか。

お酒を飲み過ぎてしまった人は、行動が大胆になり、注意力や運動能力が低下し、最後は眠りこけてしまいます。一方で、お酒に弱い遺伝子を持つ人は、少量のお酒でも顔が真っ赤になり、気分が悪くなってそれ以上のお酒を飲むことはありません。もしかすると、稲作が広がった古代中国では、飲酒文化が花開き、社会全体にその悪影響が蔓延してしまったのかもしれません。その中で、お酒を飲めない人たちの方が、生存率が高く、社会的に成功し、子どもをたくさん残していった……ちょっと妄想が過ぎるかもしれません。とはいえ、稲作が広がった古代中国ではお酒に弱い人ほど進化的に有利だったからこそ、遺伝子が今のようになっていったはずです。そこにどんな理由があったのか、今後解明されるのを期待しましょう。

図版出典

図2 Wikimedia Commons (https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Global-map-of-skin-pigmentation-levelsThis-map-based-on-the-work-of-the-geographer-R.jpg), by D. O'Neil (Behavioral Sciences Department, Palomar College, San Marcos, California, USA)を一部翻訳。CC BY 4.0.

図4  Peng, Y., Shi, H., Qi, Xb. et al., “The ADH1B Arg47His polymorphism in East Asian populations and expansion of rice domestication in history.” BMC Evol Biol 10:15(2010), Figure 1を引用。CC BY 2.0.

  1. Parra, E. J., et al., “Implications of correlations between skin color and genetic ancestry for biomedical research.” Nature Genetics 36(Suppl 11): S54-60 (2004).
  2. Edwards, M., Bigham, A., Tan, J., Li, S., Gozdzik, A., Ross, K., et al., “Association of the OCA2 Polymorphism His615Arg with Melanin Content in East Asian Populations: Further Evidence of Convergent Evolution of Skin Pigmentation.” PLoS Genetics 6(3): e1000867 (2010).
  3. Erzurum, S. C., et al., “Higher blood flow and circulating NO products offset high-altitude hypoxia among Tibetans.” Proceedings of the National Academy of Sciences 104(45):17593-8 (2007).
  4. Ongaro, L., Huerta-Sanchez, E., “A history of multiple Denisovan introgression events in modern humans.” Nature Genetics 56(12): 2612-22 (2024).
  5. Julian, C. G., Moore, L. G., “Human Genetic Adaptation to High Altitude: Evidence from the Andes.” Genes 10(2): 150 (2019).
  6. Sulem, P., et al., “Genetic determinants of hair, eye and skin pigmentation in Europeans.” Nature Genetics 39(12):1443-52 (2007).
  7. Fujimoto, A., et al., “A scan for genetic determinants of human hair morphology: EDAR is associated with Asian hair thickness.” Human Molecular Genetics 17(6):835-43 (2008).
  8. Kamberov, Y. G., et al., “Modeling recent human evolution in mice by expression of a selected EDAR variant.” Cell 152(4):691-702 (2013).
  9. Perry, G. H., et al., “Diet and the evolution of human amylase gene copy number variation.” Nature Genetics 39(10):1256-60 (2007).
  10. Bersaglieri, T., et al., “Genetic signatures of strong recent positive selection at the lactase gene.” American Journal of Human Genetics 74(6):1111-20 (2004).
  11. McGovern, P. E., et al., “Fermented beverages of pre- and proto-historic China.” Proceedings of the National Academy of Sciences 101(51):17593-8 (2004).