みすず書房

コラム

ノーベル賞を受賞した著者の本

2023年10月20日

毎年10月はノーベル賞発表の月。2023年は日本人受賞者の該当なしとなりましたが、毎年注目の集まるこの賞に関連して、小社刊行書の中から「ノーベル賞受賞者」による著作を集めてご紹介いたします。(受賞年の新しい順)

ロジャー・ペンローズ(2020年【物理学賞】受賞)
『皇帝の新しい心』

1994年刊

著者によれば、人間の心の動きは——そして、猿やイルカの心でさえ——、すでに存在するいかなるコンピュータともまったく異なっている。数学、物理学、宇宙論において輝かしい業績を挙げた鬼才ペンローズによる、いまなお刺激的なAI論。

 

エスター・デュフロ&アビジット・バナジー(2019年【経済学賞】受賞)
『貧乏人の経済学』

2012年刊

貧困研究は、ここまで進んだ! 食糧、医療、教育、家族、マイクロ融資、貯蓄……世界の貧困問題をサイエンスする新・経済学。市場 vs 政府を越えて、ランダム化対照試行(RCT)といわれる、精緻なフィールド実験が、丹念に解決策を明らかにしていきます。

 

ウィリアム・ノードハウス(2018年【経済学賞】受賞)
『グリーン経済学』

2023年刊

環境思考で経済的効率性、持続可能性、政治、税制、倫理、金融といった現代社会のあらゆる側面を鳥瞰する。「これまでに読んできた中で最良の環境書だ…人類の未来、そして地球とあらゆる生命の未来についてのガイドを探しているなら、それこそが本書だ」――キャス・サンスティーン(ハーバード大学ロースクール教授)

 

アンガス・ディートン(2015年【経済学賞】受賞)
『大脱出』

2014年刊

経済発展と貧しさの関係について最先端で研究を続けてきた著者が、250年前から現在までを歴史的にたどりながら、成長と健康の関係を丹念に分析することで、格差の背後にあるメカニズムを解き明かす。

 

J・M・クッツェー(2002年【文学賞】受賞)
『世界文学論集』

2015年刊

『マイケル・K』『恥辱』のノーベル賞作家クッツェーは、みごとな小説家であるのみならず、すぐれた批評家でもある。ほとんど未紹介であったクッツェーの文学評論を精選した本書は、エラスムスからガルシア・マルケスまでを論じている。エンジニアのように作品のテクストを分解し、文章に隠された構造とその効力・政治性を指摘する手際は、じつに鮮やか。

 

トニ・モリスン(1993年【文学賞】受賞)
『どっちの勝ち?』

2020年刊(画家スレイド・モリスンとの共著)

矛盾だらけの世界で生きぬくために、必要な知恵はなに? アフリカ系アメリカ人で初めてノーベル文学賞を受賞した女性作家が描く、現代社会の「イソップ物語」絵本。

 

エリ・ヴィーゼル(1986年【平和賞】受賞)
『夜』新版

2010年刊

強制収容所での選別、幼児の焼却、公開処刑、極寒の死の行進…。《人間》《神》《愛》といったすべてが死んだ極限状態を格調高い筆致で淡々と描くこのドキュメンタリー小説は、今なおやまぬ民族対立の時代にあって、ホロコーストという《夜》から立ち上げるべきものを問いかけつづける。

 

イリヤ・プリゴジン(1977年【化学賞】受賞)
『混沌からの秩序』

1987年刊(科学史家スタンジェールとの共著)

古典科学で例外として扱われる不可逆性や乱雑性にこそ、動的なこの世界を理解する鍵がある。非線形、不安定、ゆらぎなどの概念をキーワードに、宇宙・生命・社会のあらゆる現象に見られる秩序形成過程の具体例を探り、散逸構造や進化の諸理論がはらむ新しい世界観構築への展望を提示する。

 

ジャック・モノー(1965年【生理学・医学賞】受賞)
『偶然と必然』

1972年刊(現在品切・復刊リクエスト受付中)

機械的ともいえるような保守的な合目的的なプロセスのなかに、進化はどのようにして根を下して、新しいイノヴェイティヴなもの、創造的なものを生物圏に送りだすのか。進化の要因は、不変な情報が微視的な偶然による擾乱を受けることにある。

古くして新しい「生物とは何か」という問題をとり上げ、専門家の枠を超えて大きな反響を呼んだ著作。

 

朝永振一郎(1965年【物理学賞】受賞)
『量子力学Ⅰ』

1969年刊

朝永教授みずから第1版に綿密な検討を加え、多くの改訂・増補がなされたもの。「量子力学の発展の真の精神を把握するのに驚嘆に値するほど成功しており、……量子力学を学ぶ学生すべてに推薦できる」(ウーレンベックの英語版に対する書評)。

 

リチャード・P・ファインマン(1965年【物理学賞】受賞)
『量子力学と経路積分』新版

2017年刊

経路積分法は、量子のふるまいの直観的描像を捉え、取扱いの困難な諸問題にアプローチする有力な方法論として知られる。つねに直観的描像と理論の接点を意識していたファインマンの大きな遺産である。初版から40年を経て、原著はスタイヤーにより校訂がほどこされた。本書は原著校訂版(2010年刊)を底本としている。

 

ピーター・B・メダワー(1960年【生理学・医学賞】受賞)
『若き科学者へ』新版

2016年刊(在庫僅少)

スティーヴン・J・グールドが「これまでに出会ったなかで最も頭のいい人物」と評した生物学者メダワーによる、理系の若者への助言の書。テーマの選び方から成果発表のコツまで、著者のアドバイスはつねに本質に触れ、研究者として生きる人々の流儀とはどのようなものかを浮かび上がらせる。巻末に「新版への解説」(結城浩)を付録。

 

ウィンストン・チャーチル(1953年【文学賞】受賞)
『[完訳版]第二次世界大戦』

2023年刊行開始

史上最大の大戦下、英国を率いた元首相がみずから語る全記録。ノーベル文学賞を著者にもたらした6巻の原著(1948-54年)を全面新訳でおくる。第1巻は1919年の第一次世界大戦の講和会議から説き起こし、戦間期の20年をへて新たな大戦が勃発、1940年5月10日に65歳で首相となるまで。

 

バートランド・ラッセル(1950年【文学賞】受賞)
『西洋哲学史』新装合本

2020年刊

イギリスの哲学者であり、論理学や数学基礎論に貢献したバートランド・ラッセルが、アメリカにおける講義をもとに1946年に刊行した西洋哲学史。古代ギリシャのソクラテス以前の哲学から、中世のキリスト教の神学・哲学を経て、ルネッサンス、近代、20世紀の前半まで、いきいきと、ときにユーモラスに、独自の解釈で叙述する。

 

ポール・A・M・ディラック(1933年【物理学賞】受賞)
『量子力学』【第4版】

1963年刊 ※英語・リプリント版

「物理学的な意味をいつもおもてにだすために、いろいろと新しい概念や手法がとりいれられ、本ぜんたいが始めから終りまで独創的であって個性味にあふれている。それでいながら、量子力学を学ぶ人たちにかたよらない系統だった土台を与えてくれるような一般性もそなえている。量子力学の教科書としては理想的なものといえよう」(朝永振一郎)。

 

ヴェルナー・カルル・ハイゼンベルク(1932年【物理学賞】受賞)
『部分と全体』

1999年刊

第一次大戦後と第二次大戦中の、狂気や荒廃に満ちたドイツにあって、研究者・教師として、人間として、一国民として、著者がいかに行動してきたかを如実に示す自伝。量子力学、素粒子物理学史としても貴重な記述にみちた記録。