みすず書房

コラム

ブックリスト:選挙を考える

2024年7月12日

2024年は「選挙イヤー」ともいわれる年です。インド、イギリス、フランスの総選挙や11月のアメリカ大統領選挙をはじめとして、世界各国の国政に関わる選挙はなんと25以上。この記事では、選挙を考えるヒントになるようなみすず書房の本をご紹介します。

1. ハンナ・アーレント『真理と政治/政治における嘘』【2024年7月刊】

引田隆也、山田正行訳 國分功一郎解説 (2024年刊、原書1967、1971年刊)

政治と嘘について哲学者アーレントは何を訴えたのか。「ポスト・トゥルース」や「フェイク・ニュース」が充満する現代にあらためて世に問う、アーレントの必読論考二篇。巻末に國分功一郎氏による「渾身の」長文解説を収録。

2. ピエール・ロザンヴァロン『良き統治――大統領制化する民主主義』

古城毅、赤羽悠、安藤裕介、稲永祐介、永見瑞木、中村督訳 宇野重規解説 (2020年刊、原書2015年刊)

フランスの政治学者ピエール・ロザンヴァロンの集大成の書。「有能なリーダー」に統治をまかせることは、わかりやすい反面、政治を過度に単純化する。統治者を承認するだけの民主主義からの脱却を説く本書は、極右が存在感を増すフランスで書かれたものだ。今こそ考えるべき民主主義論。

3. ジャン=イヴ・カミュ、ニコラ・ルブール 『ヨーロッパの極右』

南祐三監訳、木村高子訳 (2023年刊、原書2015年刊)

19世紀から現在まで、ヨーロッパ各国からロシアにかけて根深く息づく極右の歴史を眺める書。『良き統治』と同様、本書の原典は2015年にフランスで刊行された。フランス極右政党の躍進が現実のものとなった今を、より精緻に理解するために。

4. トマ・ピケティ『資本とイデオロギー』

山形浩生、森本正史訳 (2023年刊、原書2019年刊)

『21世紀の資本』の経済学者ピケティが次に重視したのは、政治を動かすイデオロギーだ。とくにⅢ部以降で展開される現代国際政治の話題には、選挙の実例と分析が豊富に含まれる。各国の、そして世界の政治的文脈を、具体的なデータに基づいて分析する大作。

5. ジェレミー・ウォルドロン『ヘイト・スピーチという危害』

谷澤正嗣、川岸令和訳 (2015年刊、原書2012年刊)

移民をはじめとする外国人をとりまく問題は、世界中の選挙の争点になる。ヘイト・スピーチは、そのような文脈できわめて厄介な問題になる。「ヘイト・スピーチ」と「表現の自由」との対立をどのように考えるか。古今東西の哲学にもとづく、丁寧な説得。

6. 青山直篤『デモクラシーの現在地――アメリカの断層から』

(2022年刊)

国内外を揺るがす事件が目白押しだった2018~2022年のアメリカ。トランプとはなんだったのか。バイデンは何をしたのか。アメリカのさまざまな土地の住人をはじめ、政治家や学者たちの生の声から、政治の勢力図が浮かび上がる。今秋の米大統領選の文脈を、臨場感をもって知るために。

7. マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン 『投票の政治心理学――投票者一人ひとりの思考に迫る方法論』

岡田陽介監訳 上原直子訳 (2023年刊、原書2020年刊)

投票箱に票を投じるまさにその瞬間、投票者は何を考えているのだろうか? この素朴な疑問に答えるための、アメリカをはじめとする6ヵ国の大きな選挙を対象にした調査。伝統的な自己申告型の調査だけでなく、観察データや実験データなどの客観的データも利用した意欲的研究。「選挙の記憶」にまつわる赤裸々な語りには、自分の経験と重なるおもしろさがある。

8. フィリップ・E・テトロック『専門家の政治予測――どれだけ当たるか? どうしたら当てられるか?』

桃井緑美子、吉田周平訳 (2022年刊、原書2005年刊)

「的確な政治予測」の評価基準を探求した書。「当てられる」政治オブザーバーの特徴に迫るため、歴史を動かす大きい力を大局的に把握する「ハリネズミ」型の専門家と、手元のデータに忠実で、考え方の違う相手にも長所を見出せる、控えめな「キツネ」型の専門家というモデルを立てて分析。ちなみに、ハリネズミ/キツネモデルは、アイザイア・バーリンの『ハリネズミと狐』(岩波文庫)の着想を借りたものである。

9. ヤン=ヴェルナー・ミュラー『民主主義のルールと精神――それはいかにして生き返るのか』

山岡由美訳 (2022年刊、原書2021年刊)

民主主義とはなにか、あらためて尋ねられた時に明確に答えられるだろうか? 本書はこんな問いから始まる。選挙で指導者を選ぶことの先を見据えた民主主義論。『ポピュリズムとは何か』『試される民主主義』で注目の政治学者のエッセンスを凝縮した1冊。

10. デイヴィッド・スタサヴェージ『民主主義の人類史――何が独裁と民主を分けるのか?』

立木勝訳 (2023年刊、原書2020年刊)

民主主義が生き残る条件を探るために、米先住民や中央アフリカの初期デモクラシー(民主)と、古代のオートクラシー(専制)とを比較・分析。そのうえで初期デモクラシーから近代デモクラシーへの変質の理由を明らかにする。著者によれば「近代デモクラシーは現在進行中の経験だ」という。市民生活の基盤である「民主主義」の来歴を知り、どのような統治を望むかを明確にしたい読者へ。