みすず書房

コラム

ブックリスト:デジタルの歴史

2024年9月3日

新刊『デジタルの皇帝たち』の出版を機に、これまでに小社より刊行している「デジタル」の歴史にまつわる関連書をまとめました。20世紀初頭の先駆者たちの構想から、普及著しい電子マネーの来歴、人工知能(AI)の進化の行方まで、ビジョナリーたちの思想と先端技術の展開を見わたせる10冊です。

1. ヴィリ・レードンヴィルタ『デジタルの皇帝たち――プラットフォームが国家を超えるとき』【2024年8月刊】

濱浦奈緒子訳(2024年刊、原書2022年刊)

テクノロジーと自由を愛したサイバーリバタリアンのジョン・バーロウ、仮想通貨Bitcoinを世に放ったサトシ・ナカモト、宇宙にまで手をのばすAmazonの皇帝ジェフ・ベゾス……。「デジタルの皇帝たち」の栄光と蹉跌を、ストーリーとデータの両面から分析し、私たちがコントロールをとり戻すための道筋を示す。

2. アレックス・ライト『世界目録をつくろうとした男――奇才ポール・オトレと情報化時代の誕生』

鈴木和博訳、根本彰 解説(2024年刊、原書2014年刊)

世界書誌、国際十進分類法、世界宮殿、そして、インターネットの源流をなす機械的集合頭脳「ムンダネウム(世界都市)」。人類のあらゆる知識を収集・分類し、だれもが利用可能にするという壮大な夢に取り組んだベルギーの起業家、平和活動家ポール・オトレ(1868-1944)の構想と生涯を描く本格評伝。

3. アナニヨ・バッタチャリヤ『未来から来た男 ジョン・フォン・ノイマン』

松井信彦訳(2023年刊、原書2021年刊)

量子力学の数学的基礎付け、ゲーム理論の創始、ノイマン型コンピューターの考案……。20世紀科学史における異才にして天才、そして『悪魔の頭脳』と呼ばれたジョン・フォン・ノイマン(1903-1957)の全仕事を鳥瞰する評伝。フォン・ノイマンの主著『量子力学の数学的基礎』(1932)の邦訳も小社より(新装版、2021年)。

4. ジャロン・ラニアー『万物創生をはじめよう――私的VR事始』

谷垣暁美訳(2020年刊、原書2017年刊)

バーチャルリアリティ(VR)は、人間の“主観”に軸足を置くテクノロジーだ。個人が主観的に経験している世界全体を拡張し、他人のそれと融け合わせることさえ可能にする――。第一次VRブームの立役者が、VRの来歴と次世代への展望を語る。著者の顔を模したインパクト絶大の装丁にも注目。

5. J・D・バナール『宇宙・肉体・悪魔【新版】――理性的精神の敵について』

鎮目恭夫訳、瀬名秀明 解説(2020年刊、初版1972年刊、原書1929年刊)

「史上もっとも偉大な科学予測の試み」(A・C・クラーク)。英国の生物・物理学者バナールが1929年に発表した先駆的な人類未来論。宇宙植民島(スペースコロニー)や改造人間(サイボーグ)、群体頭脳などのラディカルな予見に満ちた科学論の古典。

6. ノーバート・ウィーナー『人間機械論【第2版】――人間の人間的な利用』

鎮目恭夫・池原止戈夫訳(2014年刊、初版1979年刊、原書1954年刊)

通信と制御の観点から、機械、生物、社会を捉える「サイバネティックス」。この新たな学問分野を創始したウィーナーが、核となる思想を平易に解説。また、自動機械や統治といった科学と社会の未来を予見しつつ、警鐘を鳴らす。

7. ロジャー・ペンローズ 『皇帝の新しい心――コンピュータ・心・物理法則』

林一訳(1994年刊、原書1989年刊)

「AIは裸の王様だ!」。人間の心のはたらきは、いかなるコンピュータともまったく異なっており、それを解く鍵は量子重力論にある。ブラック・ホールの存在を数学的に証明し、2020年にノーベル物理学賞を受賞した英国の宇宙論の鬼才が、1989年に発表した破天荒な大著。

8. ケヴィン・ケリー『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』

服部桂訳(2014年刊、原書2010年刊)

情報化、非物質化へと向かうテクノロジーの活動空間を、生態系の概念を援用して〈テクニウム〉と定義。そこでの振る舞いを、複雑性、多様性、自由、美、感受性、構造性、遍在性などの概念で読み解く。Wired誌創刊編集長が贈るテクノロジー版〈種の起源〉。

9. デイヴィッド・バーチ『ビットコインはチグリス川を漂う――マネーテクノロジーの未来史』

松本裕訳(2018年刊、原書2017年刊)

「マネーは古代バビロニアで記録が始まる前から存在した。そしてビットコインが忘れ去られてからも存在し続けるだろう」「マネーは居場所をなくし、孤立し、理解されずにいる」。電子マネーと電子識別の権威が、マネーの誕生から現在までをたどり、ビットコイン後を描き出す、おかねの未来学。

10. スチュアート・ラッセル『AI新生――人間互換の知能をつくる』

松井信彦訳(2021年刊、原書2019年刊)

「《機械は、その行動が私たちの目的を達成すると見込める限りにおいて、有益である》」。全世界で使われるAI の標準的な教科書『エージェントアプローチ 人工知能』を著した斯界の権威が、安易な脅威論を超え、ヒトとAIの新たな関係を提案する。「これまでに読んだ、最も重要な書だ」(D・カーネマン)