みすず書房

新刊紹介

「陰謀論の構造」「フェイクの手口」の知識が心のワクチンになる

2026年3月9日

「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」。これは、巨大インターネット掲示板群「2ちゃんねる」の創設者ひろゆき氏が2000年にニュース番組のインタビューに答えたときの言葉とされています。インターネット環境は2000年当時から大きく様変わりし、次々とやってくる情報の奔流に身を任せるしかなく、うそをうそと見抜くことはとても難しくなりました。

本書『フェイクニュースの免疫学』は、情報の奔流の「うまい泳ぎ方」を教えてくれる本であり、その泳ぎ方を「身近な友人や家族に教える方法」も伝授してくれる本でもあります。『虚構新聞』(「円周率、割り切れる」など、ありえないことを新聞記事ふうに提供する、おもしろWebサイト)にあるような見出しがいたるところにあふれている現代に、きわめて重要な一冊です。

「うそをうそと見抜く方法」について、くわしくは『フェイクニュースの免疫学』を読んでいただきたいのですが、本記事でポイントを少しだけご紹介いたします。「陰謀論の構造 CONSPIRE」と「フェイクの手口 DEPICT戦略」のふたつです。

陰謀論の構造――陰謀論的思考の7類型「CONSPIRE」

異星からやって来たレプティリアンが、はるか昔にこの地球を支配するようになった。その遺伝子を受け継いだ末裔が「バビロニアン・ブラザーフッド」や「イルミナティー」であり、彼らは現在、世界の出来事を操って人類に恐怖を与え続けている。レプティリアンの血筋には、ロックフェラー家、ロスチャイルド家、英国王室など、多くのエリート一家がいる。彼らは血を飲んだり、子どもをいけにえにする儀式を行ったり、姿を変えたりする。
(『フェイクニュースの免疫学』p. 57)

これは、有名な「レプティリアン陰謀論」です。これを例に、陰謀論的思考が備える7つの特質「CONSPIRE(コンスパイアー)」をご紹介します。

CONSPIREとは、Contradictory(矛盾)、Overriding Suspicion(疑念が最優先)、Nefarious intent(邪悪な意図)、Something must be wrong(何かがおかしいに違いない)、Persecuted victims(迫害の犠牲者)、Immunity to evidence(証拠に対する免疫)、Re-interpreting randomness(偶発事象の再解釈)の頭文字をとったものです。

陰謀論には、CONSPIREの特徴の一部または全部が含まれています。冒頭に提示した「レプティリアン陰謀論」を、CONSPIREに沿って見てみましょう。

まず、矛盾(C)があります。レプティリアンは「はるか昔にこの地球を支配するようになった」にもかかわらず、「恐怖を与え続ける」対象たる人類はいまだに地球にいます。

次に、疑念が最優先(O)の姿勢が見られます。社会的地位のある「ロックフェラー家、ロスチャイルド家、英国王室など、多くのエリート一家」に疑惑をかけることで、常識を疑います。

さらに、邪悪な意図(N)と迫害の犠牲者(P)も明白です。レプティリアンはどういうわけか人類を恐怖に陥れたい。そして被支配者たるわれわれ人類は迫害を受けているのです。これは大変!

そして、証拠への免疫(I)もバッチリです。レプティリアンが世界を支配している証拠が何もないのはなぜでしょうか? それは奴らが、われわれにうかがい知れない方法でうまく隠しているからです。仮に、レプティリアン説に反する証拠があったとしても、それはレプティリアンがわれわれ人類を仲間割れさせるために流したフェイクニュースかもしれません。

最後に、偶発事象の再解釈(Re)の側面もあります。レプティリアンは「世界の出来事を操って人類に恐怖を与え続けて」います。それゆえ大地震やパンデミックの裏側をもう一度考え直してみると、そこにはレプティリアンたちがいるはずです。

「陰謀論的思考」はあまりに便利なので、これからもさまざまな形で応用され、新しい〝陰謀論〟が生み出されることでしょう。ただしここで一点注意しておきたいのが、「すべての陰謀論は信じるに値しないわけではない」という点です。これについて著者は以下のように述べています。

自分に対して陰謀を企てている者がいると考えること自体は、まっとうな証拠にもとづいている限り非合理的ではない。また、権力の座にある者たちには、透明性を求めて説明責任を果たさせるべきでもある。健全な懐疑主義は、科学の営みの核となる価値観だ。             
(『フェイクニュースの免疫学』p. 58)

「陰謀論的思考」を憎んで陰謀論を憎まず、と言ったところでしょうか。「陰謀論はすべてウソ」という信念のもとで、「証拠への免疫(I)」を発揮してしまわないようにご注意を。

CONSPIREは「信じ方」の問題なので、陰謀論者の意図は善意の場合も悪意の場合もありえます(本当に地球がレプティリアンに支配されていると考えて啓蒙しているのなら、正義の味方ですよね)。一方次節では、人をだます悪意の手口「DEPICT戦略」についてです。

フェイクの手口――人心操作の6次元「DEPICT戦略」

本書では、フェイクが備える特徴を「操作の6次元 DEPICT(デピクト)戦略」とよび、整理しています。DEPICTとは、Discrediting(信用を貶める行為)、Emotion(感情の操作)、Polarization(二極化)、Impersonation(なりすまし)、Conspiracy(陰謀思考)、Trolling(荒らし行為)の頭文字をとったものです。下記に例を記します。

  • 信用を貶める(D)→「『ナントカ新聞』は誤報だらけだ」
  • 感情の操作(E)→ワクチン接種で亡くなった人がいたとき「重篤だがまれな副作用」と書くのではなく「恐ろしい致命的な血栓」と書く(いたずらに恐怖心を抱かせたり、義憤を引き起こす)

  • 二極化(P)→「ワクチンなんて猛毒だ!」もしくは「ワクチンを打とうとしない奴はみんなバカだ」(そもそも意見の分かれる話題を、過激な表現で焚き付ける)
  • なりすまし(I)→「米国の研究チームの研究によれば、……」(米国のどこの誰?)
  • 陰謀思考(C)→「コロナパンデミックは、ワクチンで人々にチップを埋め込みたい悪人による陰謀だ」(実際の出来事〔コロナパンデミック〕+CONSPIRE)
  • 荒らし行為(T)→感情の操作や二極化を狙い、botで大量の投稿をする

フェイクニュースの発信元として世界的に有名な、アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ氏のXアカウントのポストには、DEPICTのどれかが含まれるものが多くありますので、意識してご覧になってみてください(本書中でも、トランプ氏の実際のポストが例に挙がります)。

著者は共同研究者と協力して、この「操作の6次元」を学ぶためのブラウザゲームを開発しました。「Bad News」と名付けられたこのゲームでは、悪のインフルエンサーとなり、効率的に人をだますことでハイスコアを目指します。「だます側」を体感することでだまされにくくなる、「心理的ワクチン」の効果があります(こちらからプレイできます。日本語版は非対応)。このゲームは、英米版の「2ちゃんねる」ともいわれるWebサイト「Reddit」で大いにバズり、世界中で話題になりました。


ここまで、簡単なまとめをご紹介しました。本書には、「フェイクニュースはどれほど危険なのか」「人はなぜだまされるのか」「情報が手に負えないほど拡散されてしまうメカニズム」「心理的接種理論の詳細」などなど、重要なことが数多く書かれています。誤情報や偽情報により適切に対処するために、本書をご活用ください。

(編集担当:武石良平)