みすず書房

新刊紹介

政治暴力の大半を占める極右テロ 第一人者による検証と対策

2024年10月16日

2024年11月のアメリカ大統領選挙まで約1か月。話題の映画『シヴィル・ウォー』が日本でも公開された。政治的分断の激化するアメリカでついに内戦が勃発するというフィクションだが、分断は現実のもの。政治学者バーバラ・ウォルターが『アメリカは内戦に向かうのか』で懸念した事態が、この作品で描かれている。

現実社会では、7月と9月にトランプ前大統領の暗殺未遂事件が起きた。暴力へのハードル低下が懸念される事件は、他にも起きている。人種戦争の引き金としてアトランタのコンサート会場で銃乱射を目論んだ白人至上主義者が、そしてヴァージニアではハリス副大統領への殺害予告とも思われる脅迫を行なった66歳の男が、それぞれ逮捕された。トランプ支持の看板を引き抜いた若者が、それをもとに戻そうとした高齢者を車で轢き、自身は自殺するという事件も起きた。つい先日の10月13日には、トランプ前大統領の集会場付近で散弾銃と拳銃を不法所持していた人物が逮捕された。当人は極右の反政府活動家と称しており、それは自分たちが承認しない権力が制定した法は自分たちには適用されないと信じる立場である。

日本では極右と言えば愛国主義や国家主義なので、この「極右」と「反政府」の組み合わせは不思議に見えるかもしれない。反政府の立場は、アメリカでは銃所有権の死守と密接に結びついている。先月、トランプ前大統領がハリス副大統領について「全国民から銃を没収しようとしている」と根拠なく発言して批判されたが、本書『神と銃のアメリカ極右テロリズム』を読んだあとでは、これは非常に悪質で、ただの問題発言の域を超えていると思えてくる。

本書は極右テロの歴史と現在のアメリカ社会を理解するうえで有益な1冊となっているが、それだけでなく、第9章にまとめられた提言も注目に値する。暴力の防止削減には、ソーシャルメディアが主に媒介する人種差別、劣悪な嘘、陰謀論などの問題を放置してはならない。ただし反政府主義者が相手である以上、政府が上から教導するのはだめだ。ではどうすればよいのか――。著者らのアプローチは極右テロや反政府の文脈に限らず、現代特有の他の問題においても示唆に富んでいるように思われる。

 

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