みすず書房

新刊紹介

全編が三大噺のように展開する構造力学の本

2026年7月10日

書店の一般向けの科学読み物の棚に行くと、ありとあらゆる分野の本がひしめいているように見える。さまざまな生き物をテーマにした本に始まり、理論物理学、数学、分子生物学、天文学に地球科学に古生物学、農学医学感染症学などなど。その一方で、あまりこの棚に登場しないジャンルも存在する。構造力学や材料力学はその一つではないだろうか。

だからこそ、本書の原書Structures: or Why Things Don't Fall Downを知った時、その射程の広さと縦横無尽さに夢中になった。著者ジェームズ・E・ゴードンは、冒頭でこう宣言する。

結局のところ、あらゆる植物や動物、そして人間の作るほとんどすべてのものは、大なり小なり機械的な力を支えながら壊れずにいなければならない。だから、すべての物体は事実上何らかの構造物なのである。

そしてその言葉の通り、圧力容器に働く応力を解説する際には炒めたソーセージと動脈瘤と旅客機を取り上げ、ひずみエネルギーに関しては乗用車とスキーヤーとカンガルーに注目するといった調子で、あらゆるものを構造物として見る方法を読者に教えてくれる。そのほかにも「ボイラー、コウモリ、中国のジャンク船」「サンドウィッチ、頭蓋骨、オイラー博士」などのテーマが掲げられる。まるで全編が三大噺でできているかのような本なのである。

もしかしたら、本書の展開の面白さの裏には、「構造をただストレートに語っても、読者はついてきてくれない」という著者の危機感があったのかもしれない。実際、著者は構造力学に対する世間の人々の興味(の無さ)について度々言及している。

たとえば、「理屈を好まない人は多い。特に筆者の同国人である英国人には多い。そして理論を説く人をあまり高く評価しないのが普通である。物の強さや変形の問題に関しては特にそのことがあてはまる」と愚痴をこぼす。その実例が、著者自身のエピソードも含めてあちこちに埋め込まれている。

せん断とねじりの章に至っては、冒頭で「実際のところ、私たちの大部分は、せん断応力下の材料の挙動などという話は専門家に任せた方がよいと決め込みがちなのではないだろうか」と悲観する。確かにせん断は、「引っ張り」や「圧縮」に比べると少々とっつきにくい。つい頷きかけるが、騙されてはいけない。この章でも著者は、帆船の帆、ロケットの固体燃料から、オートクチュールのドレスを使って見事にせん断を解説してみせる。


これらのお題がいったいどのようにつながるのか? それはぜひ、本編で体験していただきたい。