みすず書房

新刊紹介

EA=〈効果的な利他主義〉とは何か?

2018年10月31日

イギリス、オックスフォード大学を中心に、世界に広がりつつあるEA(Effective Altruism)という新しい社会貢献運動がある。日本語で〈効果的な利他主義〉と呼ばれるEAとは、端的に言って「(1)エビデンス・ベースの寄付・慈善活動をすすめる/(2)社会全体の利益にとって効果の高いキャリア選びを手助けする」運動のこと。実証によって効果の高い慈善団体を明らかにし、寄付者を募るとともに、個人の時間を社会全体の利益に役立てるにはどうしたらよいかについて討論し、アドバイスを行っている。

この運動の中心人物のひとり、ウィリアム・マッカスキルは1987年生まれ。いわゆる「ミレニアル世代」だ。彼をはじめとして、若い研究者や企業家を中心に輪が形成されているのがEA運動の特徴である。マッカスキルはオックスフォード大学で哲学の准教授をつとめながら、2009年にギビング・ワット・ウィー・キャン、2011年に80,000アワーズという非営利組織を創設し、社会的に効果の高い「寄付」と「キャリア選択」に関する広報活動とコンサルティングを行ってきた。

オックスフォード大学から始まったこの運動は徐々に広がり、2017年には英国だけでなく、カリフォルニアのバークレーにも事務所が設立され、2018年11月現在「〈効果的な利他主義〉センター(CEA)」という名の組織として国際的な活動を行っている。
https://www.centreforeffectivealtruism.org/
つい先日も、10月26日から28日にかけてロンドンでEA Global Londonというシンポジウムが行われ「グローバルにいいことをしよう」をテーマに、50を超えるスピーチが行われたとのこと。

11月1日刊行の本書『〈効果的な利他主義〉宣言!』(原著名Doing Good Better, 2015)はマッカスキル初の単著で、まさに「行動する哲学者」の実践マニュアルというべき内容である。興味深いのは、何か良いことをするときに私たちの心を縛りがちな「こうしなければならない」という倫理的義務が記されているわけではない点だ。本書を読むと、現代日本に暮らす私たちは、歴史的、科学的観点から見た場合、これまでのどの社会と比べても「よいことをする」機会に恵まれているという「事実」が理解できる。身の回りの集団だけでなく、大きな視点で社会の役に立つことを行いたいと考えている学生の皆さんや、これまでの慈善活動にうっすらとした不信感を抱いている方々に、手に取っていただきたい一冊である。

(営業部・河波)

本書への推薦文

哲学者は冷酷。近寄りがたい。考えるばかりで行動しない。本書を読んだあとでも、そう言えるだろうか? 本書で、マッカスキルは目の醒めるような主張を述べている。心と頭を組みあわせれば、世界をよりよくすることはできる、と。そして、その具体的な方法を提示している。
――ディーン・カーラン(イェール大学経済学教授)

寄付をもっと効果的に行いたい? それなら、本書は最高の指南書だ。
――タイラー・コーエン(ジョージ・メイソン大学教授)

効果的な利他主義は、自己満足や売名のためではなく、本当の意味で人々の役に立つための活動であり、21世紀最高の発明のひとつといえよう。この刺激的な新しいムーブメントについて学びたいなら、本書を読むしかない。
――スティーブン・ピンカー(ハーバード大学教授)

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