みすず書房

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講演会・イベントレポート(2023年11月)

2023年11月28日

2023年11月、小社刊行書に関する講演イベントが2つ行われました。それぞれに参加したスタッフから、当日の模様を一部ご紹介いたします。(営業部)

『ナガサキ』著者、スーザン・サザード氏来日講演会

11月3日(金・祝)「ナガサキを語り継ぐ」@板橋グリーンホール

コロナ禍で延期となっていた、スーザン・サザード氏の来日講演が実現しました。

米国在住のサザード氏は10月に来日後、広島と長崎で講演。その後明星学園中学校の全校生徒向け講演、明治学院大学で行われた公開授業と、多摩地区の一般向け講演を経て、この日が講演ツアーの最終日でした。

「ナガサキを語り継ぐ」をテーマにした講演は、本書『ナガサキ―核戦争後の人生』に登場する5人の被爆者たちが、1945年8月9日に原爆を経験し、そこからどのように生きてきたかを写真スライドとともに語る内容でした。講演はすべて、日本語で行われました。長崎の朗読者グループ「永遠の会」2名の方が同行され、サザード氏の語りのところどころで『ナガサキ』本文から、被爆者たちが語る部分を、臨場感をもった声で朗読してくださいました。

『ナガサキ』は2019年7月の刊行後、数多くの新聞書評で紹介され、版を重ねているロングセラーです。執筆に12年という長い歳月をかけたノンフィクションであり、何より米国人であるサザード氏が、長崎の被爆者たちの側に徹底的によりそって、克明に、しかし同時に温かい筆致で描いた点で類をみない歴史書です。原爆の象徴となった「キノコ雲」の下で実際に何が起きていたのか。そして原爆が人々に長期間にわたってどのような影響をおよぼしてきたか。「核戦争」という言葉を報道で目にすることの多くなった現在、核兵器の被害についてもっとも多くのことを知ることのできる本のひとつとして、被爆国日本に生きる多くの方に手にとっていただきたい一冊です。

「あのキノコ雲の真下にいた人々の体験談は、核戦争に対する私たちの漠然とした認識を直感的な人間の体験へと一変させてくれる」(本書「まえがき」より)

著者のスーザン・サザード氏は、日本での講演を終えたあと、アメリカに戻ってすぐに、長崎被爆者(被爆2世・3世を含む)がアメリカ各地で語るキャラバンツアーのコーディネーター(又はサポート役)として参加しています(11月現在)。以下の朝日新聞デジタルの記事では、その模様が一部紹介されていますので、ご関心のある方はぜひご覧ください。

◆朝日新聞デジタル 「核といのちを考える」11/15記事より

https://www.asahi.com/articles/ASRCH5S47RCGTOLB001.html

【12/1追記】本イベントの模様が、毎日新聞ウェブで紹介されました。

◆毎日新聞 ウェブニュース記事「米国人作家はなぜナガサキを問い続けるのか 託された被爆者の言葉」(11/30)

https://mainichi.jp/articles/20231129/k00/00m/040/173000c

『中井久夫 人と仕事』『心的外傷と回復 新版』刊行記念 最相葉月&阿部大樹トークイベント

11月19日(日)「こころを見る、こころを書く」@三鷹〈本と珈琲の店 UNITÉ〉

2022年8月にこの世を去った精神科医、中井久夫。このたびの対談では、長く中井氏の聞き書きを続けてきたノンフィクションライターの最相葉月氏と、中井訳のジュディス・L・ハーマン『心的外傷と回復』の新版刊行にあたって増補部分の訳を手掛けた精神科医の阿部大樹氏に、中井氏の仕事について、振り返って語っていただきました。

当日は、やむを得ない事情で会場に阿部氏の幼いお子さんが同行することになり、登壇者おふたりのあいだに「小さなゲスト」をはさんでの対談となりました。ひざの上で父にイラストをせがむ幼子のリクエストに応えながら、ときにユーモアも交えて家族といっしょに参加者に語りかける阿部氏の姿に、会場は温かい空気に包まれていました。

「小さい子って不思議で、お化けを見たことがないはずなのに、絵に描いたお化けがわかるんですよね」(阿部氏)

対談は「統合失調症に目鼻をつけ」た中井の仕事を継いで、精神医学は21世紀に何を仕事にするのか、という最相氏の質問から始まり、日米の社会的問題になっている組織が生む暴力と、心的外傷にどう向き合うか、個人間の問題か制度的な問題かの社会的なコンセンサスがない性暴力抑止の難しさ、中井の著作に見えるsense of guilt(罪の意識)と執筆への原動力とは、大江健三郎と中井久夫の共通点、など、多岐にわたる主題について議論が交わされました。

中井久夫がこれまで書いたもの、語ったものの外側にある大切なものを考えるきっかけを生む、貴重な対談だったと思います。年代順に中井の仕事を鳥瞰した『中井久夫 人と仕事』を読んでからご覧いただくと、より一層深く中井氏のテキストのメッセージを感じられるのではないでしょうか。

本イベントの動画は、ひきつづき12月19日までの限定で、書店のウェブショップにてアーカイブ配信中です。ご関心のある方はぜひ視聴ください。

◆アーカイブ動画チケットのご購入は下記UNITÉウェブストアにて(視聴期間2023/12/19まで)
https://unite-books.shop/items/652cf1cc07ebb5002c996abc