みすず書房

新刊紹介

ワニのためにオーストラリアへ。ワニのために生きる

2025年11月17日

本書はもともと、月刊雑誌『みすず』で連載されていた記事を書籍化したものです。雑誌連載時の記事がTV番組『情熱大陸』のディレクターの目に留まり、取材が行われて2023年8月に放送されました。番組は、ワニの迫力ある映像から著者の仕事の様子とその哲学までがよくまとまった印象的なものでしたから、記憶にある方もいるかもしれません。

著者の福田氏は現在、オーストラリアはノーザンテリトリー準州で、野生ワニの保護管理の仕事に従事しています。高校生のときにテレビに映ったワニとその研究者をみて、雷に打たれたように「自分もこの人のようになるのだ」と思い、オーストラリアに行くことを決意したそうです。彼がワニを研究している理由は、何度聞いても、本当にそれだけです。なぜかワニに魅せられたから、というシンプルな理由は、そのまま福田氏自身の魅力であるように思います。

では、高校生だった福田氏がオーストラリアに行こうと決意して、まずどうしたかというと、オーストラリアの大学に進むことを目標に据えました。日本の大学で生物学を学び、ゆくゆくは……と考える人が多そうなところ、彼はまっすぐにオーストラリアを目指したのです。このようにキッパリハッキリと目標に向かう姿勢は福田氏の人生に通底しており、読者はそこから目を離せず、引っ張られるようについ読み進めてしまう……本書はそんな魅力のある本です。

本書の冒頭には、著者の次のような言葉があります。

「好奇心旺盛な読者にいくばくかの興味を持って読んでもらえるならありがたい。さらにはどんな分野であれ、将来を模索している若い方々に反面教師の材料なり、何らかのヒントや参考なりにしてもらえるならば、筆者としてこれほどうれしいことはない」。編集担当者としては、この本はまさに、将来を模索している若い方々にモチベーションを与えることができる本だ、と自信を持って言えます。

書店の店頭で、お手に取っていただけましたら幸いです。

「情熱大陸」ワニ研究家 福田雄介編(2023年8月13日)の未公開映像(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=zf4rccQ2Bds

『クロコダイルに魅せられて』目次

はじめに

I いかにしてワニの研究者になったのか
第1章 ワニの研究者になりたい
ワニとの出会い/英語の壁/初めてのオーストラリア/やっと合格/大学生活/ワニ園でのボランティア/初めてのフィールドワーク/指導者探し/師匠との出会い/学内発表/必死の反論
第2章 いかにしてワニの研究者になったのか
ワニの学会/政府のワニ研究者/イリエワニ調査/突然の終わり/ひょんなことから就職/父の死/カカドゥの怪人/ついに夢叶う

II ワニの研究という仕事
第3章 ワニの研究という仕事
山積みの課題/ワニの卵の過剰採集/先住民の土地・アーネムランド/収穫量の引き上げ/ワニは何頭いるのか?
第4章 人を襲うワニ
突然の報せ/ワニによる死亡事故/カカドゥでの事故/サンタクロース先生の危惧/恐れていたことが現実に/事故の影響/検死審問と上司の訴え/検死官の指摘/事故記録の欠如/埋もれていた発見
第5章 人とワニの軋轢
ワニによる死亡事故/どんな人が襲われているのか/どんなワニが襲っているのか/ワニに襲われた時の生存率/止まらぬ死亡事故/意外な兆し/ダーウィン湾の問題ワニ/問題ワニはどこから来るのか/新たな上司
第6章 公務員研究者の哲学
研究は税金の無駄/研究の意義/事業仕分け/契約終了の危機/突然の別れ/最後の教え/冬の時代終わる/ミンダナオ島の大ワニ「ロロン」

III ワニの博士になる
第7章 海を渡るワニの謎
行政による研究活動/小さな研究の限界/ワニは海を渡るのか/社会人学生に/資金集め/サンプルの採集/数々の発見/ワニも迷子になる/ワニ形態学の巨人
第8章 東ティモールのワニ
海外からの遺伝子サンプル/東ティモールへ/ディリにて/ワニのシャーマン/分析結果/再訪/ディリにて再び/南海岸/被害者との面談/夜の探索/ワニ族の儀式/ウェブ先生の迫力/イリエワニの亜種/ウェブ先生の引退

IV ワニ保護管理の今とこれから
第9章 保護管理計画の見直し
ワニの商業利用/保護のジレンマ/エコツーリズムとサファリ・ハンティング/再び荒れる世論/予算の増額/パブリックコメント
第10章 これから
学会準備/ワニの系統樹マンダラ/20年ぶりの学会/ジャンピング・クロック/政権交代再び/予期せぬ落胆/これからすべきこと/ポスドク

あとがき