ジェンダーの話は難しい、そしてややこしい。
異なる性自認や性的指向のことに無知な自分が、軽はずみにジェンダーのことなんか話題にしたら、われ知らず誰かを傷つけてしまいそう。
そんな苦手意識からLGBTQ+やジェンダー多様性についての解説書を手にとると、冒頭から覚えなくてはならない用語だらけ……。
ジェンダーやセクシュアリティは誰にもつきまとっているものなのに、ジェンダー多様性というテーマはどうしてこんなにハードルが高いの──?
そんなふうに感じていたときにこのコミックに出会い、なんて自然で、気持ちのいいアプローチなんだろうと思いました。
自身も性や身体への違和感に悩むセクシュアル・マイノリティである著者が、さまざまな性自認・性的指向をもつ市井の人々56人にインタビューし、人々の生きた語りそのものからジェンダーやセクシュアリティの多様性について知り、考える作品です。
登場人物の多くがセクシュアル・マイノリティであり、その言葉や様子のディテールが、まるでこちらもインタビューに同席しているかのような臨場感や温かみをもって、語りかけてきます。
多くの解説書にあるような整理された理論理屈はいったん忘れて、まずこの人たち一人一人の経験の機微を体感することのなかに、とても多くの学びがあります。