精神分析における独立派の思索
精神分析の独立派の潮流にはひとつの逆説が存在している。すなわち、その中核となる価値観──グランド・セオリーに対して不信感を抱き、対話的で暫定的なものを評価する──の意味するところは、はっきりと明確な立場ないし観点を有していないように見える点にある。下手をすると、中間派middle groupは中途半派muddle groupに見える。ペダーの全作品(このたび初めて実現した本論文集)を細やかに紐解けば、このような偏見は和らぎ、独立派の思索に備わる主要な特徴の見本を理解できるだろう。
すでに私はペダーの言語に対する感受性に焦点を当て、分析関係で決定的な変化をもたらす要素として彼が遊びを評価していることに注目した。これらに対し私は、独立派の伝統で中心をなすと思えるいくつかの側面を別個に加えたいと思う。第一に、伝統に囚われずに精神分析の聖典に対してタルムード然と盲従しない能力である。ペダーは、ボウルビィ(第2章)、フェアベアン、バリントに依拠し、アタッチメントと性的ではない愛(アガペー)が人事における動機づけとしてエロスやタナトスと同じくらい重要であると論じている(Holmes 2009参照)。
ここから生まれたのが精神分析以外の関連研究の成果や着想を受け入れる能力であり、実際、これは必要なものである。これにより、不毛や冗長ではなく、交雑受精や雑種強勢が生じた。ブラウンによる女性のうつ病研究や、人生早期に親を喪失すると後年にうつ病を好発しやすいという知見をめぐるペダーの議論(第3章と第4章)は、その好例である。親を喪失した際の年齢によって後続するうつ病の性質が神経症的となるか精神病的となるかに影響するというペダーの見事な推測は、いまだに十分な検証を受けていない。
三つ目の要素は、分析の考え方を利用しながらも、「常識」から離れずにいるというペダーの能力を指す。実際のところ、まさにこの能力のおかげで、彼は精神分析に無縁の同業者(精神科医や精神分析以外の心理療法家など)のあいだで精神分析を代表する強力な大使として認められているのではないだろうか。彼は多言語話者であり、精神分析と精神医学と医学全般の概念世界に等しく精通している。彼は英国心理療法家連合所属の精神分析家たちがUKCPの残りの心理療法コミュニティから分裂する心配を口にしているが、その言葉(第6章と第7章)には、相互理解と通訳(別の形の隠喩/転移)に対するこのような思いやりが反映されている。「ペダーの法則」(第5章)──患者に心理療法を終える予告をする期間は治療期間の月数の平方根でなければならない──は、例のごとく臨床的叡智が詰まった簡潔な箴言である。しかし、「極意の書」には見当たらないのではないかと思う。
ペダー(第6章)は、スーパーヴィジョンに対しても患者の情緒的成長を援助するために分析家が果たす役割に対しても、バリントの園芸に関する隠喩である「剪定pruning」を活用している。このアングロ=サクソン系の「プロテスタント」モデルは、ほかの精神分析の伝統に見られるような「カトリック」アプローチと対比することができよう。ペダーにとって、分析家の役割は「産婆術maieutic」(Scott 2008参照)であり、患者とその無意識のあいだで自らの割り込みを控えるものであるが、形を整え、助長し、促進し、必要とあらば、枯れ枝を取り除く助産師のような役目である。ルターが語る神のように、独立派の伝統では、無意識は主体に直接語りかけるのであって、全知全能の分析家を介して語りかけるものではない。
最後に、独立派の伝統は明らかに対人=関係的であり、治療関係をふたりの人間のあいだの事態とみなしている。分析家の貢献をすべて技法に還元するなどできるはずがない。転移や逆転移、投影同一化、欲動、防衛などが重要であるとしても、根底には人間関係にある二人が存在し、互いを理解しようとし、苦しみが呼び起こす支持や援助を見つけ出そうとしているのである。ウィンシップ(第7章に寄せる解説)は、心理療法分野を医学が席巻することを良しとするペダーに対して、適切な形で疑問を投げかけている。しかし、逆説的ながら、医学と精神医学の背景を有しているからこそ、ペダーは役割や肩書きの背後に控えるシンプルな人間性、人間の苦しみの不可避性、それを和らげるための(完全には実現できないけれど)要件を理解できているのだ。
これらの問題と格闘するため、ジョナサン・ペダーは模範的なアン・ヒーローである(決してアンチ・ヒーローではない──彼の反抗心は常にうまく抑制されている)。ウィンシップの言葉を借りれば、ペダーは一貫して「正確で、的確で、そして魅力的」でありつづけている。私たちの学問分野において、この寡黙な巨匠から学ぶべきことはたくさんある。本書もその主題と同様に、相応の称賛・好意・尊敬を呼び起こすに違いない。
文献
Holmes, J. (2009). Exploring In Security: Towards an Attachment-informed Psychoanalytic Psychotherapy. London: Routledge. (細澤仁・筒井亮太訳[2021]『アタッチメントと心理療法:こころに安心基地を作るための理論と実践』東京:みすず書房)
Scott, D. (Ed.)(2008). Maieusis: Essays in Ancient Philosophy in Honour of Myles Burnyet. Oxford: Oxford Scholarship Online.
(著作権者の同意を得て抜粋転載しています。
なお読みやすいよう行のあきを加えています)