本書を読んでまず驚かされるのは、メルウェーデ広場を舞台に花開く、アンネ・フランクの生き生きとした姿である。広場を走りまわり、ドイツ人とオランダ人、ユダヤ人と非ユダヤ人といった垣根を超えて友人関係を築きあげ、仲間たちと「少女ギャング」よろしく広場を闊歩し、アイスクリームを平らげ、ご近所の幼児の世話を焼き、時に大人たちを困らせ、しかし多くの人に忘れがたい記憶を残したアンネ・フランク。彼女の姿は、孤独に黙々と日記をしたためる少女のイメージと対照的だ。アンネには潜伏生活に入るまで、八年にわたり広場で隣人や友人たちと紡いだ、濃密な時間があったのだ。
本書の表紙写真は、アンネの10歳の誕生日会に集まった友人たちといっしょに広場で撮影されている(アンネは左から2人目)。撮影者は父オットー。アンネを取り巻く広場の親密な人間関係を、これほどみごとに示すものはないだろう。本書で描かれるアンネの姿は、「隠れ家の少女」像を一新する、「広場の少女アンネ・フランク」といってよい。アンネは「ひとりじゃなかった」のだ。
(「訳者あとがき」)
本書には、広場をめぐる地図と、アンネやアンネの友人、隣人たち、広場や通りのたくさんの写真も収められている。
インタビューと史料から、いくつもの波乱の人生が甦る。