みすず書房

コラム

過激なSNSに傷ついた人々へ

2022年6月23日

みすず書房は2009年からツイッターのアカウントで情報発信を行っている。「バズる」ことはなるべく目指さず、本を手にとるきっかけになりそうな情報を、読者、書店のみなさんに着実にお伝えしたい。そんな思いを抱くいちSNS担当者にとって、6月に刊行されたクリス・ベイルの『ソーシャルメディア・プリズム』は示唆に富む本だった。

まず驚きだったのは、自分と対立する立場の「多様な意見」に触れることは、SNS上での政治的な分極化を防ぐ対策にはなりそうにないという実験結果だった。SNSはエコーチェンバー(反響室)であり、そこにいると自分と立場の近い意見にばかり繰り返し触れて現実認識にバイアスがかかる。だからそのエコーチェンバーを「壊す」ことが政治的な過激化を防ぐことになるのではないか。著者のベイル氏は、この仮説を実験によって否定してみせる。

著者が使ったのはソーシャルメディア上でメッセージ共有を自動で行うアカウント、通称ボットだ。リベラル派と保守派の有名論客によるアカウントを選んでデータベースを作成し、民主党支持者には保守派のツイートが、共和党支持者にはリベラル派のツイートがタイムラインに流れるように設計する。この「介入」を、米国で政党に帰属意識のある週3回以上のツイッター使用者1220人に対して1ヶ月間行った結果は「民主党派も共和党派も、より穏健にはならなかった。それどころか結果は逆向きだ」(22頁)という。ソーシャルメディアで対立見解に接した人は、それまでの意見を強めうる。この効果については著者以外の研究グループによっても同じ結果が出ていると書かれていて驚いた。

著者は上の実験のあと、さらに上の調査の回答者に、こんどは1対1の深層インタビューを行って、人がSNSで政治的見解を強めるメカニズムを分析していく。そこから明らかになるのは、人々が政治的アイデンティティ―という「ユニフォーム」をSNSで見ることによって、自分がどこかに帰属していることをアピールして孤独を癒し、「つながろう」とする仕組みである。

ではどうすべきか、という処方箋についても著者は模索している。VR開発の創始者として知られるジャロン・ラニアーのベストセラー『今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由』にならって、SNSをやめるのが賢明な選択なのか? これは多くの若者にとって「自分の生活様式を諦めること」であり、現実的ではないと著者は主張する。

「ソーシャルメディア・プラットフォームがこの国の政治をゆがませていることについて職業人生の大半を費やして研究してきた身として、こう書くのはつらいのだが、アメリカの民主主義にとっての公共の広場はまだしばらくソーシャルメディアだろう。」(100頁)

もう少し、よりよいSNSの使い方ができないものか。そういう悩みを抱えている方は個人にも、企業の担当者にも多いと思う。著者は本書で、いくつかの解決策を示している。自分が閲覧しているアカウントの政治的なイデオロギー性を測ってから、関わるかどうかを判断する、既存のプラットフォームだけでなく、自分の目的に沿ったSNSを応援してみる、などなど…(詳細は本書8、9章をご一読ください)。

もちろん、この本に有効な解決策がすべて書いてあるわけではない。しかし現実のSNSを把握する多様な実験に触れることで、SNSに向き合う新しい心構えについては、見つけることができるのではないだろうか。

(営業部SNS担当)