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本書『ナガサキ』の原著が米国で刊行されたのは2015年。邦訳刊行は2019年の7月である。その夏には長崎新聞、しんぶん赤旗、北海道新聞、日本経済新聞、朝日新聞、公明新聞など各紙で書評に取り上げられ、現在も刷を重ねている。
米国人作家である著者が、12年の歳月をかけ、被爆者の側に徹底的に寄り添って書き上げたノンフィクションである本書の比類なき特徴は、「核戦争による長期の破滅的影響についての明白な事実」が、記されている点にある。
10代の若者だった、被爆の「語り部」となる5人のひとたちが経験した、1945年8月9日午前11時2分に投下された4.5トンのプルトニウム爆弾。
その原子雲真下の「同日同刻」から、苦難とともに生きのびてきた「長い戦後」まで。
著者は本人とその家族、関係者への聞き書きにくわえ、他の多くの被爆者や治療に携わった医師たちが残した証言、アメリカ軍兵士・司令官の手紙、戦略爆撃調査団報告をはじめ占領軍検閲政策、原爆傷害調査委員会をめぐる公文書資料などを調査し、本書に記している。
私は、本書でとりあげた被爆者たちとは異なる文化や時代に生きてきたアメリカ人であることから、被爆者の体験を誤った方向に操作、私物化するようなことは避けたかった。理由はなんであれ、彼らは私たちの国によってすでに傷つけられてしまっている人たちであることを考えればなおさらである。この課題に対する私の答えは、被爆者自身の言葉・表現をそのまま引用することで、彼らの体験をできるかぎり正確に伝えるというものだった。また得られた科学的、医学的、歴史的な分析結果や情報のなかでもっとも明確なものを採用し、彼らもその一部をなす歴史の大きな枠組みのなかに被爆者の体験を位置づけた。
原爆投下の必要性についての質問に答える際、私は被爆者の体験に再度目を向けるよう人々を促す。それなしには広島と長崎への原爆攻撃の軍事的、道徳的な問題、そしてそれが人間の生死にどう関わるかを徹底的に議論することはできない。
人類の歴史において核兵器の攻撃とその後の惨状を生き抜いてきた唯一の人々である被爆者。人生の終わりの時期に差しかかっている彼らの記憶のなかには私たちの心を奮い立たせるような、核戦争による長期の破滅的影響についての明白な事実が刻まれている。
(以上、「まえがき」より)
本書の最終章には、原爆による死を免れ、致命的な障害という逆境に打ち勝って自分の体験を語りつづけてきた5人の約70年後の姿が、各人のメッセージとともに記されている。
核戦争という脅威が現実のものとなった2023年現在、本書を多くの日本人にあらためて手に取っていただきたい。