『格差と再分配』『21世紀の資本』『資本とイデオロギー』3冊の大著3000頁分を、著者みずから250頁に凝縮した新刊『平等についての小さな歴史』。このたびの日本語版の刊行に先立ち、本書の一部をご紹介いたします。
「あなたの著書はとても興味深いです。でも、その研究について友人や家族と共有できるように、もう少し短くまとめて書いてもらえるとありがたいですが、どうでしょう?」
このささやかな本はある意味、読者の皆さんにお会いするたびに決まって言われたそんな要望に応えたものだ。私はこの20年間に不平等の歴史について3冊の著作を世に出したが、いずれもおよそ1000ページにも及ぶものになった。『格差と再分配――20世紀フランスの資本』(早川書房、2016年)『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)『資本とイデオロギー』(みすず書房、2023年)の3冊だ。これらの著作はそれ自体、比較歴史研究の大規模な国際プログラムから得た情報に基づいている。このプログラムは、いくつもの報告書や共同研究を発表し、世界不平等データベース(WID.world)を発展させてきた。こうして積み重ねられた膨大な量の考証を前にすれば、どんなに好奇心旺盛な人でも意気消沈してしまうことだろう。そこで私はこれまでの研究を要約することにした。本書はその成果である。
しかし本書は、こうした研究から得られる主な教訓を総論的に紹介しているだけではない。この数年間に持ちあがったさまざまな問題についての論争を取り上げながら、自分の数々の研究を通して深めた確信に基づいて平等の歴史についての新たな展望を示している。平等への歩みはずっと前からあるもので、ぜひとも21世紀に引き継ぐべき闘いだが、そのためには、往々にして前進を妨げているアイデンティティや生活規範の違いによる対立をみんなで力を合わせて断ち切らなければならない。経済問題は非常に重要で、一握りのスペシャリストや指導者たちに任せてはおけない。力関係を変えるには、市民が経済に関する知識を得ることがひとつの重要なステップだ。もちろん一部の読者には、いずれはもっと分厚い著書(分厚いが、非常に読みやすいと断言する!)を読むよう説得したいと思っている。いずれにしろ、この短い本は他の著作と切り離して読むことができる。このような取り組みに向けて背中を押してくれたすべての読者、学生、一般市民の皆さんに、ここに感謝の意を表したい。
(本書「謝辞」より)
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