本書は、『21世紀の資本』で知られるフランスの経済学者トマ・ピケティが、2016年9月から21年1月にかけて夕刊紙『ルモンド』に寄稿したコラムより44本を選び、新たに序文を付した時評集です。
英国のEU離脱(ブレグジット)、トランピズムの隆盛、ロシアや中国の経済構造に潜む矛盾、マクロン新大統領の改革、欧州の抱える諸問題、新型コロナ・パンデミックの猛威、アメリカ連邦議会議事堂の襲撃事件に至るまで、世界と私たちが日々直面するテーマを遡上に、「格差」研究の第一人者ならではの鋭く、歯切れのよい議論が展開されます。ひとりの欧州人、フランス市民としての素顔が随所に垣間見える点も魅力です。
本書の冒頭では、ソ連崩壊の翌年にモスクワをはじめて訪れた若き日の思い出が披露されます。1971年生まれで、「ソビエト主義の絶対的な失敗を目の当たりにしながら大人になった世代」(p. 2)であるピケティ氏が、なぜいま「社会主義」の必要性を訴えるのか? その理由はぜひ、冒頭の「来たれ、社会主義 2020年9月」のなかでお確かめください。
それぞれのコラムは2-5ページほどとごく短く、内容的なつながりも緩やかですので、興味のあるトピックから気軽に読むことができます。どのテーマについても、背景にある「格差」問題へと議論が収斂していくので、ピケティ経済学のエッセンスが詰まった恰好の入門書ともなっています。激動の2010年代後半を振り返るうえでも、興味尽きない1冊です。トリコロールをあしらった、おしゃれな装丁にもご注目ください。
なお、本書に収録したコラムの一部は、過去に朝日新聞でも「ピケティコラム@ルモンド」のタイトルで抄訳掲載されていたので、それを愛読されていた方にもおすすめです。ピケティ氏は現在も『ルモンド』紙で健筆を振るい、ウクライナ危機やフランス大統領選挙に関する発言でも注目されています。最新のコラムは、仏語版と英語版は『ルモンド』ブログ(https://www.lemonde.fr/blog/piketty/)で、邦訳は「クーリエ・ジャポン」(https://courrier.jp/news/tag/author-thomas-piketty/[有料])で読むことができます。