B・ラッセルの古典的著作『西洋哲学史』に復刊を求める声を多くいただき、2020年秋、このたび「新装合本」としてよみがえることになりました。
本書のような書物にあっては、選択の問題は非常に難しいものとなる。詳細に述べなければ、それは不毛で無味乾燥なものとなり、詳細に述べてゆくと、たまらないほど長たらしいものとなる危険がある。わたくしは、自分にきわめて重要だと思える哲学者のみを扱い、彼らに関連して、根本的な重要さをもつとはいえなくても、例解的あるいは描写を活き活きとさせるような意味で価値のある詳細だけを付加することにして、一つの妥協を求めたのである。
(原著者まえがきより)
バートランド・ラッセルは西洋哲学という膨大な知の集積を「古代哲学」「中世哲学」「近代哲学」の3つに分け、論じました。原著はアメリカにおける講義をもとに1946年に刊行されたもので、膨大な分量ではあるものの、一貫してウィットあふれる語り口で、平明に論じられているのが特徴です。
▶︎ピタゴラス――彼は知的にいって、かつて生を享けたことのあるひとびとのうちでもっとも重要な人物の一人であった。彼が賢明であった場合とそうでなかった場合との双方において、重要な人物だったのである。
▶︎プラトン――プラトンは、偏狭な提案に巧みな体裁をつける腕前をもっていたので、その諸提案は後世の諸時代を欺むき、後世のひとびとは彼の「共和国」を、その提案が意味するものをまったく意識することなしに賞讃したのである。
▶︎アリストテレス――彼の死後、世界がほぼ彼に匹敵するとみなし得るような哲学者を産み出したのは、二千年も後のことであった。…アリストテレスを正当に評価するためには、まずわれわれは、彼の死後における過剰の名声を忘れ、またそれがもたらした同様に過剰な彼に対する断罪をも、忘れてかからねばならないのである。
「古代哲学」に登場する哲学者3人の紹介文の一部を引用しただけでも、著者の初学者への気配りと、率直で批判精神にあふれた視点のユニークさがおわかりになるかと思います。880頁にもおよぶ大著ですが「知的な誠実性」を求めるすべての哲学探究者にとって、今なお示唆に富む本です。小部数発行のため高額書ではありますが、今回の新装合本版を、お近くの書店、または図書館にリクエストいただき、ぜひお手にとってご覧ください。