みすず書房

新刊紹介

60年安保闘争の熱気は、どこへ?

2026年10月19日

本書は、Nick Kapur, Japan at the Crossroads: Conflict and Compromise after Anpo(Harvard UP, 2018)の全訳である。著者のニック・カプーア氏は、アメリカの日本現代史研究者であり、デビュー作となる本書では、60年安保闘争とその後に起きた日本社会の変化を描いている。学術的評価も高く、60年安保闘争に関する英語圏の代表的な研究書とされ、著者と交流の深い日本の研究者からもかねてより待望されていた邦訳版である。またその筆致は、日本の戦後史を描いたジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』(岩波書店、2004年増補版)に通じるものがあり、歴史の渦中で起きた出来事を、当時の熱気とともに追体験できる。

邦題は『アフター安保1960』とした。その意図は、本書が戦後日本史において「安保以後」という画期を明確に打ち出しているからである。1960年に起きた安保闘争は、結果として日米安全保障条約の改定を阻止できなかった。ただ、この大規模な民衆抗議運動が起きたことにより、日本社会に大きな変化が生じたのである。

[前略]60年安保闘争とその直後の時期は、実はある種の革命的瞬間だった。徹底した政治革命は起こらなかったが、はるかに強力な相互依存を土台とした日米同盟、「寛容と忍耐」をもとにした日本の新しい国内政治、新しい社会運動、新しい文学・芸術表現へと道をひらいたのだ。同時に日本ではより幅広い保守革命が展開しはじめ、ある種の表現を制限し、あけすけに論争をせず、合意を重んじる方向へと日本社会全体が向かっていく。(8頁)

ここにあるように、その変化は日米関係にとどまらず、国内政治や社会運動のあり方、さらには芸術活動にまで及んでいる。本書では、それらの変化を、具体的には、政治的な争点がイデオロギー対立から「所得倍増計画」に象徴される経済問題へと移っていく過程や、ヒエラルキー的なモダニズム芸術から多様なポストモダン芸術が生まれていく過程などを、それぞれの章で丁寧にたどっている。また、それら個々の出来事が「安保以後」という1つのまとまりとして描かれていることが、本書の魅力となる。

「60年安保闘争」は失敗に終わった過去の出来事ではなく、その後の日本社会に大きな影響を与えた出来事であった。そして、その影響は今なお続いている。戦後日本を捉え直す1冊として、ぜひ手に取っていただきたい。